気になる前歯や八重歯、奥歯だけを治す方法として「部分矯正」があります。
全体に矯正器具を取り付ける全体矯正とは違い、治したい箇所だけに取り付けるため見た目も違和感なく、期間が短く費用も安く済みます。
そこでそれぞれの症状に合わせて部分矯正は可能なのかについて詳しく解説します。
目次
1.前歯だけ部分的に矯正することは可能?
では、前歯だけ部分矯正できるのかということについて基本的なことから解説していきます。
1-1 部分矯正とは?
そもそも部分矯正とは何であるかということですが、これは文字通り「部分的に歯列矯正を行う」という治療法です。一般的な歯列矯正のイメージは、「ブラケット矯正」「マウスピース矯正」のように、歯全体を覆う矯正器具で、全体の歯並びを改善するイメージがあります。部分矯正は、一部分の悪い歯並びの歯だけを動かし、見た目を改善する治療法です。
その特性上、「かみ合わせ」を改善する効果はあまり期待できません。かみ合わせは全体の歯の位置が重要であり、部分的に改善するだけで全体の歯並びを改善できるケースが極めて稀なことです。
1-2 前歯だけの部分矯正は可能?
では、前歯だけの部分矯正はできるのかということですが、これは可能な治療内容であると言えます。歯列矯正はかみ合わせを改善したい場合は全体矯正が必要になるのですが、出っ歯などの前歯の見た目の問題を解消したいというだけであれば、部分矯正だけでも十分に対応できます。
1-3 症状次第では部分矯正では治せないことも
ただし、前歯の歯並びに関する全ての症状を部分矯正で治せるというわけではありません。患者さんの前歯やその他の歯・顎の状態次第では、部分矯正ではなく全体矯正でないと治せない場合もあります。
また、部分矯正でも治せるけれど、全体矯正で治したほうがきれいに仕上がるというケースもあります。歯並びは歯1本1本の問題ではなく、歯全体で考えなければならないケースが多いです。そのため「前歯の歯並びを治したい」と考えていても、前歯だけ治したのでは解決できないこともあります。
その判断は歯科医師の診断と、最終的には患者さんの意思次第ではあります。ですが、歯科医師が「全体矯正のほうが良い」と診断した場合は、出来る限りその診断に従ったほうが最終的な治療結果の満足度も高まることでしょう。ただし、後述の「費用」の問題とも相談しなければならないので、全体矯正でなければならないというわけではないということは念頭に置いておくようにしましょう。
2.前歯部分矯正の値段(費用)はどれくらい必要なの?
次に、前歯の部分矯正に必要な費用について解説します。
治療内容により異なる
全体の歯列矯正でも同じことが言えますが、部分治療もまた利用する「治療方法」によって費用は異なります。一般的に、上の前歯だけ治療したい(出っ歯など)場合であれば、15万円~40万円ほどで治療ができるクリニックがあります。両方の前歯を矯正したい場合や、審美性を追求した治療方法の場合は、さらに費用がかかります。
ですが、どの治療方法であっても、同じ治療法を全体矯正で利用する場合と比較すると費用が抑えられるという点は一致します。例えば、ブラケット矯正を全体の歯列矯正で利用する場合、費用相場は50万円~80万円ほどかかる傾向があります。しかし、上の前歯だけ部分矯正したい場合のブラケット矯正であれば、安ければ15万円程度、高くても40万円~50万円で治療ができるクリニックがあります。
3.前歯の矯正に必要な期間の目安はどれくらい?
次に、前歯の部分矯正に必要な期間について解説します。
症状や治療方法次第だが、全体矯正よりも短い期間で済む事が多い
これも症状や治療方法によって目安は異なります。ですが、実際に必要になる治療期間は、同じ方法を用いた場合の全体矯正のケースと比較して短期間で済むことが多いです。つまり、部分矯正で歯並びの悪さを改善することは、全体矯正のそれよりも短期間かつ安い費用で治療が完了することが多いということになります。
通常、ブラケット矯正やマウスピース矯正は、1~3年、場合によってはそれ以上の治療期間が必要になるケースもあります。年単位での治療なので、非常に長い目で治療を続けなければなりません。また、結果が現れるのもそれだけ遅くなるということになりますので、前歯の見た目を良くするのも数年後ということになります。
ですが、ブラケット矯正でも部分矯正の場合は、1年前後で治療が完了することが多いです。長ければ3年以上かかる治療を1年前後に抑えられるので、前歯をできるだけ早く治したいという場合にメリットが大きくなります。
また、前歯の見た目だけ治せれば良いと言うのであれば、さらに短期間で治療が完了する「セラミック矯正」という方法もあります。これは、歯を削るというデメリットはありますが、削った歯にセラミック製の被せ物をすることで、手早く歯並びを治せる方法です。この治療法の場合、早ければ2~3ヶ月で前歯の問題を解消できます。
セラミック矯正は厳密には矯正治療とは言いにくいのですが、これに部分矯正(ブラケット・マウスピース矯正)を組み合わせた「ハイブリッド矯正」という治療法もあります。この場合、治療に必要な期間はおよそ半年~1年と、セラミック矯正とブラケット矯正それぞれ単独の場合の中間の治療期間となります。
4.八重歯の場合も部分矯正できる?
次に、「八重歯の部分矯正」について解説します。
4-1 八重歯とは?
そもそも「八重歯」を正しく認識できているでしょうか?人にとっては「犬歯」や「犬歯が前に飛び出ている状態」のことを八重歯だと思っているかもしれませんが、八重歯は正確には「生えている位置に異常が認められている歯」のことを言います。つまり、一般的に「八重歯=前歯」というイメージが有るのですが、上記の条件に合致すれば奥歯でも八重歯になる可能性があるということになります。
八重歯が発生する原因としては、例えば乳歯が永久歯に生え変わるにあたって、特定の歯が他の歯に重なるようにして生えてきて、干渉を受けることでずれた状態で生えてしまうことがあります。これにより、八重歯が発生するのです。
ちなみに、「八重歯=犬歯」のイメージが強いのには理由があります。犬歯は、他の歯と比較して永久歯に生え変わるタイミングが遅いのです。そのため、既に永久歯に生え変わっている他の歯に干渉されやすく、八重歯になってしまう確率が高いのです。
また、顎の骨が小さい人も、八重歯になりやすいと言われています。これは、顎の骨が小さいということはつまり「歯が生えるスペースが狭い」ということです。つまり、元から八重歯が生えやすい状態になっているということです。
4-2 八重歯は部分矯正で治すことができる
では、そんな八重歯を部分矯正で治せるのかということですが、患者さん次第では十分、八重歯を部分矯正で治すことが可能です。実際の治療経過の写真を見てみるとわかりやすいですが、ブラケット矯正などの部分矯正で驚くほど八重歯の状態を改善できている症例が多く存在します。
4-3 どのようにして八重歯を改善するのか?
では、どのようにして八重歯を矯正するのかと言えば、具体的には「抜歯」「スライス」「顎の拡大」という3つの方法があります。どの方法も、八重歯の原因となっている「歯が生えるスペース不足」を解消するものです。
まずは「抜歯」です。これは歯を1本抜いて、抜いた分だけまるごとスペースを確保するという方法です。
次に「スライス」です。これは、歯の両端を数ミリずつ削り、削った幅と削った本数分だけスペースを確保するという方法です。削る幅と本数は、必要なスペースによって異なります。
最後は「顎の拡大」です。これは、顎が小さい症例において、歯並びを悪くする原因となる顎を拡大し、八重歯のスペースを確保するというものです。
4-4 場合によっては全体矯正を利用することに
ただし、患者さん次第では部分矯正では八重歯を治せない可能性もあります。患者さん次第と言うより、具体的には八重歯の状態や他の歯の状態、全体のかみ合わせなどを考慮した場合に、部分矯正よりも全体矯正を選択したほうが良い、あるいは全体矯正でないと八重歯を改善できない場合があります。
この場合でも、八重歯の見た目だけ改善したいから部分矯正で、と考える患者さんもいらっしゃいます。しかし、実際に施術を行うのは歯科医師です。歯科医師は歯や歯並びに関するトラブルのプロですから、その歯科医師が無理だと判断した場合は、大人しく従ったほうが良い可能性が高いです。もちろん、歯科医師の経験や技術によっては部分矯正で解決できる余地が残っていますので、いくつかの歯科医院で無料相談を利用し、治療方針を確認しておきましょう。
5.奥歯の矯正は部分矯正に該当するのか?
最後に、「奥歯の矯正」について解説します。
5-1 奥歯の矯正は部分矯正に該当するのか?
まず、奥歯を1本だけ矯正する治療が部分矯正に該当するのかということです。これはニュアンスの問題もあるのですが、一般的なイメージとしての部分矯正は「前歯の矯正」です。部分矯正と言われて奥歯の矯正を第一にイメージする方は少ないのではないかと思います。
例えば「出っ歯」など、歯並びを部分的に改善したい場合に用いられることが多いのが部分矯正です。これは、部分矯正が歯並びの改善によるかみ合わせの改善よりも、審美面を重視していることに由来します。前歯は外から見えやすい位置に生えている歯であるため、見た目の悪さによるコンプレックスを解消したいという方が多いです。ですが、それは機能面ではなくあくまでも審美面での改善を希望するため、全体矯正よりも部分矯正を多用するのです。
この点で言えば、外から見えず、審美性を問われることが少ない奥歯の矯正は、部分矯正に該当するかと言われれば難しいです。ただし、「歯並びを部分的に改善する」という意味から考えれば、奥歯の歯並びだけを改善したい症例もありますし、それに対して奥歯だけを矯正治療することも可能なので、奥歯も部分矯正に該当しないとは言い切れません。
5-2 奥歯の部分矯正も状況次第
ただし、奥歯を部分的に矯正したい場合でも、実際に治療する際には全体矯正を勧められることも多いです。例えば、抜歯の必要性がある虫歯治療などにおいて、抜いた奥歯の位置を埋めるための部分矯正を行うこともありますが、これにもいくつかの条件があります。
端的に言えば「かみ合わせに問題がない場合」です。奥歯のかみ合わせは、顎の位置を安定させる上で特に重要な役割を果たします。元からかみ合わせに問題がない場合であれば良いのですが、かみ合わせに問題があると奥歯数本を動かすだけでは根本的な問題を解決できない可能性が高いです。
また、単純の1本の奥歯だけを動かすということも難しいです。実際に矯正治療で奥歯を動かす場合、隣り合っている歯にも反作用が働き、動いてしまいます。これを抑えるために、矯正治療で反作用が働く歯に対しても器具を用いて、動かないように仕向ける必要があります。
5.まとめ
確かに部分矯正は、全体矯正と比較して短期間で、しかも安い料金で前歯の歯並びを改善できます。
しかし、全ての患者さんが部分矯正で前歯の歯並びを改善できるわけではないということを念頭に置く必要があります。全体矯正を利用しなければ、希望通りの結果にならない可能性が高く、それでは数十万円の治療費も余計に割高に感じてしまうことでしょう。
ですが、部分矯正のメリットが失われるというわけではありません。人によっては部分矯正で十分な結果が出ることもあるのです。そうすれば、少ない手間と費用で前歯のコンプレックスを解消できるのですから、利用しない手はありません。
とは言え、部分矯正で治せるかどうか判断できるのは歯科医師だけです。まずは歯科医院の無料カウンセリング(有料の場合もあり)を利用して、自分の前歯が部分矯正で治せるのか、その場合はどれくらいの期間と費用で治せるのか、きちんと見極める必要があります。