歯並びや噛み合わせをきれいな状態にするのが、矯正歯科治療です。出っ歯や受け口、八重歯、開咬などの症例を治療するのが目的となります。矯正歯科治療では、歯を削ることはありません。矯正装置を装着して、歯を動かしていく方法です。
矯正歯科治療には、いくつかの種類があります。その中でもワイヤー矯正は、基本的な矯正方法の一つと言えます。複数の症例に対応できるなどの特徴があると言えるでしょう。
この記事では、ワイヤー矯正のメカニズム、ワイヤー矯正の種類、メリットとデメリットなどを紹介します。
目次
ワイヤー矯正とは
ワイヤー矯正とは、歯にブラケットとワイヤーを装着して正しい位置に歯を動かす矯正治療です。多くの症例に適用できる一般的な矯正治療方法となります。
ワイヤー矯正のメカニズム
歯を支えるための歯槽骨(しそうこつ)と呼ばれる骨が、歯の周りに存在しています。そして歯槽骨と歯の間にあるのが、クッションの役割をする「歯槽膜」です。
ワイヤー矯正では、歯を動かす方向に力を加えます。力を加えると一方の歯槽膜が縮むため、元に戻ろうとする力が働き、骨を溶かして歯を動かします。また逆側の歯槽膜は伸びるため、こちらも元に戻ろうとする力が働き、伸びた部分に骨を新しく作ります。
このような状況を作り出し、歯を少しずつ動かしていくのがワイヤー矯正です。
治療の流れ
ワイヤー矯正治療を行う場合、次のような流れとなります。
- 歯科医院でカウンセリングを受ける
抱えている悩みや治療の要望などを話し合い、ワイヤー矯正のメリットやデメリットなどの説明を受けます。 - 精密検査
歯茎の状態や虫歯の有無、歯並びなど、口の中の状態を検査します。 - 治療計画の説明
ワイヤー矯正の治療計画、費用、期間などの説明を受けます。 - 術前処置
歯周病や虫歯がある場合、矯正治療の前に治しておく必要があります。先にそれらの治療を受ける形です。 - 矯正治療開始
歯をクリーニングし、ブラケットを歯に装着します。その後ワイヤーを通して矯正治療を行う方法です。 - 定期健診
約1ヶ月に1回程度の頻度で、定期検診を受けます。歯が計画通りに動いているかどうか、ワイヤーの強さが適切かなどの確認です。 - 保定装置の装着
ワイヤー矯正治療が終了した後、歯が元に戻ってしまわないように保定装置を取り付けます。保定装置は、おおよそ1年〜3年ほど装着する場合が多いでしょう。
ワイヤー矯正の主な種類
ワイヤー矯正には、いくつかの種類があります。種類によって、取り付ける位置が異なる形です。以下にワイヤー矯正の主な種類について紹介します。
表側矯正
表側矯正とは、歯の表側に取り付けて矯正治療する方法です。適用できる症例が多く、比較的治療期間が短いと言えます。しかし歯の表面に装着するため、目立ちやすく食事がしづらいデメリットがあります。
おおよその金額は、全体矯正の場合、60万円〜130万円となります。部分矯正の場合は、30万円〜60万円です。
裏側矯正
裏側矯正とは、歯の裏側に取り付けて矯正治療する方法です。見た目は目立ちにくいですが、治療期間は表側矯正よりも長くなります。また適用している症例は多いと言えます。しかし食事がしづらく、しゃべりにくかったり痛みや不快さを感じたりすることもあります。
おおよその金額は、全体矯正の場合で100万円〜170万円です。部分矯正の場合は、40万円〜70万円となります。
ハーフリンガル矯正
ハーフリンガル矯正とは、上の歯の裏側、下の歯の表側に取り付けて矯正治療する方法です。目立ちにくく、不快さや痛みを感じにくい治療方法と言えます。しかし歯磨きがしづらかったり、かみ合わせによっては適用できなかったりする場合もあります。
おおよその金額は、全体矯正の場合で80万円〜150万円で、部分矯正の場合は、35万円〜65万円となります。
ワイヤー矯正に使われるブラケットの主な種類
ワイヤー矯正で使用するブラケットにも種類があります。主な種類としては、次の通りです。
メタルブラケット
壊れにくく丈夫な点が特徴です。また費用も安く済むことが多いです。ただし金属のため、見た目が目立ちやすく、口腔内の違和感も大きいと言えるでしょう。また、口内炎ができやすくなることもあります。
プラスチックブラケット
こちらはポリマー素材を使用するので、半透明や透明な素材となります。そのため、歯の表面に装着していても目立ちません。また、素材の感触がソフトなため、違和感や痛みが少ないと言えるでしょう。
ただし耐久性や強度が弱いため、大きな力をかけられない可能性があります。
セラミックブラケット
天然の歯と同じような材質です。歯の詰め物にも使われている素材で、見た目が目立ちません。変色したり着色したりすることもなく丈夫です。ただし費用が高額になったり、口腔内の刺激が強く痛みを感じたりする場合もあります。
ハイブリッドブラケット
セラミックとプラスチックでできた素材を使用したブラケットです。透明で目立ちにくく、価格も抑えられます。しかし、変色しやすかったり装置の厚みで違和感を覚えたりすることもある場合があります。
ジルコニアブラケット
セラミック素材のジルコニアを使用したブラケットです。セラミックブラケットと同じように見た目が目立ちにくく、強度も強い点が特徴となります。ただし、費用が大きくなる可能性もあります。
セルフライゲーションブラケット
歯の裏側に設置する小型の矯正装置です。歯の裏側に装着するので、見た目が目立ちません。また小さくて丸みのある形になっているため、違和感がないのが特徴です。ただし治療期間が長かったり、費用が高額になったりすることもあります。
リンガルブラケット
歯の裏側に設置するブラケットを指します。そのため目立つことはありません。しかし取り付けには高度な技術が必要となり、難易度が高い治療方法です。また、口腔ケアにも手間がかかりやすくなることや費用も高額になる可能性があるでしょう。
ワイヤー矯正に使われるアーチワイヤーの種類
使用するワイヤーには、いくつかの種類があります。ワイヤーごとに特徴が異なる状況です。ここでは、種類について紹介します。
メタルワイヤー
メタルワイヤーは金属のため、銀色で目立ちやすいのが特徴です。矯正治療の費用を抑えたいと考えている場合は、メタルワイヤーが良いでしょう。メタルワイヤーにも、いくつかの種類が存在しています。
ニッケルチタンワイヤー
矯正治療の初期段階に使用します。初期段階では、可能な限り弱い力で歯を動かしていく方法です。素材が柔らかく、変形させても一定の力が保たれるニッケルチタンワイヤーが適しています。
また形状記憶という特徴もあり、ブラケットを正確な位置に装着できれば、歯を一列に揃えることも簡単と言えます。
ステンレススチールワイヤー
矯正治療の中期段階に使用するワイヤーです。中期段階では、ワイヤーがたわんでしまわないようにすることが重要となります。ステンレススチールワイヤーは引っ張ってもたわみにくい素材のため、中期段階に適している素材と言えます。
βチタンワイヤー
矯正治療の終盤に使用するのがβチタンワイヤーです。終盤では、移動させた歯を固定させつつ、歯の微調整を行います。そのため、弾力性と硬さがあるβチタンワイヤーが適していると言えます。βチタンとは、ニッケル以外の金属をチタンに混ぜ合わせた合金を指しています。
ホワイトワイヤー
ホワイトワイヤーは、メタルワイヤーを白い樹脂でコーティングしたものです。色が白なので目立つことはありません。しかし使用しているうちに樹脂が剥がれていき、金色部分が見えてくる可能性もあります。おおよそ2ヶ月以上使用している場合は、剥がれやすいと言えるでしょう。
また、ホワイトワイヤーは、コーティングする手間がある分、費用が高額となる場合があります。
ワイヤー矯正をするメリット・デメリット
ワイヤー矯正には、いくつかのメリットとデメリットが存在しています。以下はそれぞれの紹介です。
メリット
ワイヤー矯正の主なメリットは、次の通りです。
- 細かい調整が可能である
- 適用できる症例が多い
- 自己管理の要素が少ない
- 効率的に歯を移動できる
- 矯正器具を外す必要がない
デメリット
ワイヤー矯正の主なデメリットには、次のものがあります。
- 痛みが出ることもある
- 歯磨きや食事がやりにくい
- 口の中が傷つく可能性がある
- 違和感を覚えることがある
- 矯正器具が他の人から見ても目立つ
矯正装置や治療法を選ぶ基準
歯科矯正は長期間の治療となります。そのため矯正装置を選ぶ基準は、治療を受ける人の希望を可能な限り反映したものが良いでしょう。ここでは、矯正装置を選ぶ基準を紹介しています。
見た目
ワイヤー矯正では、見た目について気になる人も多い状況です。見た目を気にする場合は、裏側矯正やハーフリンガル矯正のように、歯の裏側に矯正装置を取り付ける方法を選択するのが良いでしょう。
また表側矯正の場合でも、ブラケットの種類で目立たなくすることができます。プラスチックブラケットやセラミックブラケット、ジルコニアブラケットを選ぶ方法です。さらに、ホワイトワイヤーを選択することも、見た目を目立たなくする有効な手段と言えます。
価格
ワイヤー矯正の価格には幅があります。価格を抑えたいと考えている場合、表側矯正がおすすめです。また使用する素材によっても、価格が変わります。メタルブラケットとメタルワイヤーを選択することで、価格を抑えることが可能です。
身体との相性
ワイヤー矯正では、長期間口の中に矯正装置を取り付けることになります。そのため金属アレルギーを持っている場合、素材を考慮する必要があるでしょう。
セラミックブラケットやジルコニアブラケット、ニッケルチタンワイヤーを選択することで、金属アレルギーを回避することが可能となります。
治療期間
ワイヤー矯正を短い治療期間で終了させたい場合、表側矯正がおすすめです。裏側矯正を選択すると、高い技術が必要となるため、治療期間が長くなる可能性があります。
ワイヤー矯正の種類に関するよくある質問
ここでは、ワイヤー矯正に関してのよくある質問をまとめています。
矯正ワイヤーは何年くらいつけますか?
ワイヤー矯正を行なった場合、おおよその目安は1年〜3年です。ただし矯正の種類や、矯正する範囲によって異なります。以下のような期間が目安と言えるでしょう。
矯正範囲 |
表側矯正 |
裏側矯正 |
ハーフリンガル矯正 |
部分矯正 |
2ヶ月~1年ほど |
5ヶ月~1年ほど |
5ヶ月~1年ほど |
全体矯正 |
1年~3年ほど |
2年~3年ほど |
2年~3年ほど |
ワイヤー矯正はいつが一番痛いですか?
矯正装置を取り付けた翌日から1週間程度が、最も痛くなる期間です。痛みは、取り付けて3時間〜6時間経過したあたりから徐々に始まります。その後、翌日〜1週間程度がピークとなり、それから痛みが治まってきます。
ワイヤーの太さは矯正治療とどのような関係がありますか
ワイヤー矯正では、初期段階の歯が最も乱れている状態の時は細いワイヤーを使用します。これは、徐々に歯を動かしていくためです。その後、歯並びが改善してきた場合、太いワイヤーに取り換えて歯を固定します。
ワイヤー矯正の費用を安く抑えるにはどのようにしたら良いですか?
ワイヤー矯正では、見た目を重視して目立たなくする方法を選択するほど、費用が高額になりやすいと言えます。費用を抑える場合、見た目を重視しない方が良いでしょう。
例えば表面矯正や、メタルブラケット、メタルワイヤーを選択する方法です。
また、治療範囲でも費用が変わります。気になるのが部分的な場合は、部分矯正を選択した方が費用を抑えることができます。